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ヴァイオリンを弾いている颯太が、不意に目線を上げた。
途端、バッチリ目が合った。
「……あっ。」
いつの間にか止まっていた、裏板を削る手がビクっと跳ねた。
「有坂さん?どうかしましたか?」
クリスマス公演に向けて、ルロイのそりすべりを弾きこんでいた颯太が柔らかく笑う。
「いえ、……いい音だなぁって。」
「本当ですか?嬉しいなあ。」
コクコクとうなづきながら、火照る顔を隠すように作業に戻る。
ーーびっくりした。
目が合って初めて、見惚れていたことに気付いた。
チラリと盗み見ると、颯太はどこか嬉しそうにまた練習を再開している。
若々しい、伸びやかな音。
それはとても颯太らしい。
彼を見ていると、どうしても鼓動が早くなってしまう。そして、触れたい、抱きしめられたい、キスしたい……。そんな、今まで感じた事のない想いに囚われてしまう。
付き合い始めて3ヶ月、未だそう多くないキス止まりだけれど。
「……君が好きだよ。」
本人には聞こえないように、小さく小さく呟いた。
【END】
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