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翌日快晴の空の下、バイオリンを背負って地図を行く。実家から持って来た、自転車で。
教えられた工房は、自転車で15分くらいの、言ってしまえば辺鄙なところにあった。
不意に、甘い香りが漂っていることに気付いた。
正体を探ろうと、自転車にまたがったままキョロキョロと周囲を見回す。
道路の反対側、少し先に紫色の花が咲いていた。
「ライラックか。」
実家にもあった、懐かしい花だ。
車も人もいない一車線道路を斜め横断し、花を愛でるとほんの少しだけノスタルジーに浸れた。
「……あれ?」
ライラックの花の下、以前は白かったであろう看板が目に入った。
『有坂バイオリン工房』
「ありさかバイオリンこうぼう。」
声に出して、小さく呟く。
目的地に着いたらしい。
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