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「ま、待ってくれ、いやだ、いたい、俺は死にたくない。やだ、やだよ、いたい、あ、やだ、や」
ガスマスクの白衣の男の声はそこで途絶えた。
錆びたチェーンソーの音がする。コツコツコツ、と俺が隠れている場所の近くで足音が聞こえる。
緊張で手が震える。
「そこにいるのはわかってるんだよ?早く出てきてアレを渡した方がいいんじゃないのぉ?」
アイツが俺に向けて言ってくる言葉を、脳で咀嚼しながら聞いていた。
何かないか、いい考えが、早く考えろ、アレを渡さない手を考えろ。
息が自然と荒くなる。
「あれぇ?そこにいるんだね?今ならまだ待っててあげるよぉ?」
誰が待っててもらうかよ、どうせ出て行っても殺すくせに、と心の中で毒づき、震える手を押さえながらイスを持ち上げガラスを割る。
ガシャンと大きな音を立て、素早くガラスの破片を持ち反対方向へ隠れた。
「あれれぇ?こんなわかりやすく居場所教えてくれるのぉ?」
コツコツと近づくアイツの足音。俺は息を殺し、チェーンソーを持っている手を思いっきり刺した。
「うっ」
チェーンソーを落としたのを好機に俺はそれを拾い、あいつの首めがけてぶっ放した。
飛ぶアイツの首を見届け近づく。
やりきった達成感で体の力がぬける。
もう…、殺される危険はないんだ…。
アイツの顔を見てやろうと落ちた首に近づいてみると、そこには子供の時から会っていない弟の顔があった。
「この目元の黒子は……
最悪だ…この世の終わりだ…俺達が、家族で殺しあってたなんて…」
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