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あの年は―――
言うに言えんくれぇの、そりゃあ暑い年じゃった。
そのうえ、どういう訳か雨が一粒たりと降らんでのぉ……
すっかり糸みたいになっちまった川から、難儀してカラカラになった田に水を入れてなあ。
そんなだから、毎日どっかで水を奪い合って喧嘩になっちまう、そんな年じゃった。
兄ぃや村の若い衆はよ、最初は止めに入りはしたけんど、だんだんアホらしゅうなっちまって『食い物もねえし気が立ってんだべ……そのうち疲れりゃ止めるべ。ほっとけほっとけ』って相手にせんようになっただ。
そんなある日、源兵衛って名の一番の兄貴分がよ、川見ながら言うたんじゃ。
「こう暑くちゃやってられっか!気晴らしに魚でも獲りに行くべ」
魚を獲って町まで行って売りゃあ、なんぼかの銭になる。
若い衆の小遣い稼ぎじゃから、今と変わらんじゃろ。
「よっしゃあ。帰りに酒でも買って、またパーっとやるべ」
「かはーっ!酒かぁ……長いこと飲んでねえなあ」
ベロリと舌舐めずりするやつらを見て、呆れ顔で『何を言ってるだ』と首を振るやつらもおった。
「魚だ?んだら、いったいどこで獲るんだべ?川がこん調子じゃあ……」
「ああ。川の水がのうなってきてから、魚の顔なんぞ久しゅう拝んでねえぞ」
今にも途切れそうな川を見て、『だなあ……』と皆が肩を落としていく。
「魚はこの川の上流じゃあ」
源兵衛が山に向かって指差した。
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