.:*【少水の魚】:.:*:

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川に沿ってどんどん山を登って行くと、水が減って細くなった滝が見えてきた。 「ほれ、ここですらこんなになっちまってる」 「これじゃあ魚もいねえだろ……」 「心配するな。天昇りの滝まで行きゃあ魚なんぞゴロゴロおる」 残念そうに水を飲んでいる若い衆に源兵衛は声を掛け、また先へ先へ…… お天道さんが頭の上まで昇った頃には道はとうになくなり、険しい岩の剥き出しになった場所を休み休み進んでいた。 「おっ!聞こえる……近ぇぞ」 水の落ちるでっけえ音が聞こえ、皆の足も速くなる。 儂も必死に後を追って行くと見たことねえ滝と深そうな色をした淵が足下に見えたんじゃ。 淵から流れる川には、キラキラ光る魚達が数えきれんほど泳いでおるのが見えた。 「すげ……すげえ!!」 興奮する若い衆に『そうじゃろ!』と源兵衛は肩を叩き目をぎらつかせた。 「さあ、急いで準備するべ。今夜はここで寝て、明日朝一番からやるべ」 薪を集める者、根流しの材料を集める者…… それぞれが準備に取り掛かり、下へと降りて行った。 儂も何本かの木を担いで降りると、その晩の夜露を凌ぐ場所を誰かと作り始めた時じゃった。 「何をなさっているのですか?」 透き通るような声に顔を上げると、真っ白な着物を着た美しい若い娘が立っておった。
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