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娘の体から煙のようなものが出てきてのう。
その煙は生臭く、それを嗅いだ途端、儂を含め皆痺れて動けなくなったんじゃ。
『いつの時代にも残念な人間がおるものよ……』
ゆっくり立ち上がった娘は、筋骨隆々の逞しい男の姿に変わっておった。
『女体と化してまで、穏やかに済ませてやろうと思うたのに……愚かな人間どもがっ!』
男は驚いた表情で口をパクパクさせている源兵衛の肩を掴むと、額に吸い付いたんじゃ。
「ぐ……ぐあ…」
苦しんでいる源兵衛の体が、痙攣を起こしたようにビクリビクリと揺れているが、それでも儂らには見ていることしかできなんだ。
暫くして男が額から離れた時、源兵衛はぐったりとした体を辛うじて立たされているだけじゃった。
よく見ると、源兵衛の額にはぽっかりと丸い穴が開き、中から血に混じった何かがドロリと流れ出てきておった。
『人間は不味い生き物で、食えるところが少ない。脳と……心の臓くらいだな』
男は躊躇うことなく、指先をくっつけた手を源兵衛の胸に突き刺したんじゃ。
「ぎひぃぃぃ~っ!!」
一声上げた源兵衛より抜き取られた男の手から真っ赤な血が滴り落ち、赤く脈打つ物が握られている。
『だが人間の脳と心の臓は甘露よ……』
男はさっきまでの源兵衛達が見せていたような淫靡な目で舌舐めずりをしてから、その赤い心の臓にかじりつきしっかりと味わうと、丹念に己の指の一本一本まで美味そうに舐め尽くしたんじゃ。
『おお……』
恍惚の表情で目を細めた男の体の芯では、太く長いものが恐ろしいほどそそり起った。
『主さま……主さまぁ…子種を我に下さいませ』
ぱしゃんと鯉が一匹、淵の中から飛び出したかと思うと美しい女に変わり、その男の胸にすがったんじゃ。
『ほう……此度はそちが我の子を産むか?』
『はい……』
女は頬を赤らめ男を見上げる。
『主さまの御子を産みたい者は、まだまだおりまする』
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