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.:*【少水の魚】:.:*:
「えれえ昔のことだぁ。儂がまだ十二・三だかそこらだったかのう。まだまだ小僧呼ばわりされて、まぁたそれが嫌で嫌で、いきがって兄ぃ達の尻ばっか追っておった頃だ……」
湯呑みの茶を一口飲み、薄くなった頭に白い髭をたくわえたじっ様が、胡座をかいた足の上で、懐かしそうに湯呑みを持つ手を擦った。
手は長年の野良仕事でゴツゴツとしておるが、もう歳も歳だですっかり細くなり、今では鎌すら長いこと握れねえ手に変わっている。
「あれは、暑い暑い年で……儂も八十まで生きてきたが、あの年ほど雨の降らなんだ年はなかった……」
じっ様は囲炉裏の赤く燃える炎に目をやり、考え込むように目を伏せた。
しばらく押し黙り目を開いたじっ様は、今の今まで懐かしさから穏やかな目をしておったのに、何かに取り憑かれたように血走り、ただ炎を凝視しておる。
「まあ、聞きたきゃ聞くがええ……」
誰に言うともなくそう言うと、ゆっくりと話し始めた。
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