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いつもの角を曲がると、いつもの香ばしい匂いがカジオの鼻に漂ってきた。その匂いにひかれて、その扉をくぐるのも、彼にとってはいつものことだった。
「いらっしゃいませ」
明るい声が飛んできた。
本当に、あのずんぐりむっくりの夫婦から、どうしてこんなすらりとした長身の娘が生まれてきたのか、彼女を見る度にカジオは不思議に思う。この看板娘と、夫婦の焼く素晴らしいパンのおかげで、このお店は今日も上々の客入りだ。
ありがとうございました、という魅力的な声と笑顔に送られて、カジオは店を後にした。
通り道にある公園に入り、日のよく当たったベンチに腰を下ろすと、今買ってきたばかりのパンを頬張る。ふんわり柔らかな感触が舌の上で潰れると、豊かな香りが鼻を抜けていく。今日もいい出来だ。
腹と心が十分に満たされると、カジオはズボンのパンくずを払いながら立ち上がった。もうそろそろ勤め先の役所に到着しなければならない時間だった。
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