第1章

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本名は一度きいた記憶があるが、ながったらしく覚えにくいもので忘れてしまった。 だから勝手にソウと呼ぶことにした。 実に分かりやすい。 僕は赤くなった頬をさすりながら文句を言う。 「ちょっと。叩いちゃいけないって何回言わせるんだよ」 「ごめん。でも、呼んでも起きないんだもん」 「だからって、ソウが叩くと凄く痛いんだよ。かなりの高確率で血が出るんだから。そもそもなんで僕の部屋にいるんだよ」 「ベランダのドアが空いてたから」 「え? ベランダのドアが空いてたから、入った?」 ソウは一つの葉を上下に垂らした。 これは頷いている仕草らしい。 「理由になるか。人間の社会ではな。ベランダを入口とみなしてないんだ」 泥棒ぐらいなものだ。 「ここ、人間ドームじゃないよ。下級ドームだよ」 知ってるわ。そう心の中で呟き、ため息を一つ吐いた。 「あぁ。そうだな。僕が悪かった」 「間違いは誰にでもあるよ」 軽やかな口調で答えるソウは、人間で言えば微笑んでいるのだろう。 僕も赤くなった頬をいたわりながら微笑んでいた。 今日も最悪な一日の始まりだと自虐的に微笑まずにいられないだろ。
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