跡取り

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 翌朝、俺はけだるい頭で昨夜のことを考えていた。  あの女は何だったのだろう。夢にしてはリアルだったし、物凄い寒気も確かに感じた。  それにしても、跡取り様のものというのはどういう意味だ?  昔からあまりにも耳にしてきた『跡取り』という言葉。あの女とそれが関係しているというのなら、気が進まないけれど、親にこのことを話してみようか。  のそのそと起き出して台所へ行く。一応食事の用意はしてくれてあったが、温かく迎え入れてくれる様子はない。まあ、昔からこうだけどな。  朝食を食いながら、どのタイミンクで夕べの話をしようか考える。その時に気づいた。  俺になど見向きもせず、兄貴ばかりを見ている両親。その目が昨夜の女にそっくりだということに。  何が、とはうまく言えない。でも判る。同じだ。二人共、あの女と同じ目で兄貴を見ている。  俺の頭の中で何かが弾けた。  早々に食事を終え、部屋に戻る。身支度を整え、もう一度台所へ向かう。 「じゃあ俺、帰るから」  そう告げても両親は何も言わなかった。まったく俺になど興味がない素振りで兄貴を見ている。  兄貴も同様で、こちらは『そうか』と口にしたが、俺などまるで気にかけるふうはなかった。  だけどもう、親の反応も兄の反応もどうでもいい。だって俺は、この家の『跡取り』の意味が判ったから。  この家の『跡取り』。それはあの女に憑りつかれること。自分はむろん、愛して迎えた妻もあの女に憑りつかれ、夫婦して次の跡取りを得ることだけを考えるようになる。  あの女が憑りつくための存在をこの世に生み出し、育て、ただそれを繰り返す。  これが本当かどうかは判らない。でも俺は確信している。この家の跡取り。それはあの幽霊と添う者だ。  親はもういい。ただ、兄貴、元気で長生きしてくれよ。早く跡取りの子供を作ってくれよ。その子供を大切にしてくれよ。そうすれば、俺はこの因果には関わらないですむ。  ああ、今、心から思う。俺は『跡取り』に生まれなくてよかった。  昨夜見た女の幽霊に支配されている家。その扉を抜け、自由な世界へ逃げ出したことを痛感しながら、俺は生まれて初めて次男に生まれたことを感謝した。 跡取り…完
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