ハリノムシロ

2/13
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
 パスンッ……  なんとも情けない音が大ホールに響いた。  (なんで、なんで、なんでよりによって大事な本番にミスっちまったんだよ、俺ー!!)  最悪だ……この世の終わりだ……きっとそうに違いない……  先輩たちににらまれている気がする。いや、演奏中だから、みんな指揮を見ているはずだけど、心の目はこっちを向いていて、グサグサと俺に刺さっている気がして震えが止まらない。  中学最後の吹奏楽コンクールとなる3年生たちは気合いが違っていた。  うちの学校の吹奏楽部は毎年、地区大会は難なく通過するものの、県大会を抜けて支部大会にまで進んだことがない。  長年、県大会銀賞が定位置だったのが、ここ数年は『ダメ金』が続いている。『ダメ金』というのは、金賞を獲っても代表には選ばれないことを言う。  みんな、今年こそは!と意気込んでいたのに……。  何てことをしてしまったんだろう。俺の人生終わったな。絶望で手の震えが止まらないし、足も痛い。  ……ん? 足が痛い?  ふと自分の足を見下ろすと、誰かの足にギュウギュウと踏まれていた。  その足の主は――  (森先輩!)  左隣でバスドラムを演奏中の森大輔先輩は、目で何かを訴えていた。よく見ると、黒目が左右に動いていて……。  (ヤバい! 楽譜をめくらないと!)  やっと気づいた。手が離せない森先輩の代わりに、俺が楽譜をめくることになっていたのだ。  慌てて手を伸ばそうとして、もうひとつ忘れていたことに気がついた。  (シンバル持ったままだったー!!)  目の前にある合わせシンバル用スタンドに急いで、しかしぶつけないよう慎重に下ろし、今度こそ楽譜に手を掛けたのだが、ハタと困ってしまった。  (……今ドコ……?)  シンバルのミスに動揺していた俺は、茫然とするあまり、みんなの演奏が聴こえていなかったのだ。  楽譜をめくる箇所は自由曲の中間部。テンポは遅い。  ようやく俺の耳に入ってきたのは、同じ音型の繰り返し部分で、指揮を見たところで何小節目なのかさっぱりわからない。  この自由曲を練習し始めた頃、小節の数え間違いはよくあった。その度に、森先輩は声を出してカウントしてくれたけれど……。  今は本番。森先輩もさすがに声は出せないし、表情だけで数字までは伝えられない。  (どどど、どうしよう!)
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!