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パスンッ……
なんとも情けない音が大ホールに響いた。
(なんで、なんで、なんでよりによって大事な本番にミスっちまったんだよ、俺ー!!)
最悪だ……この世の終わりだ……きっとそうに違いない……
先輩たちににらまれている気がする。いや、演奏中だから、みんな指揮を見ているはずだけど、心の目はこっちを向いていて、グサグサと俺に刺さっている気がして震えが止まらない。
中学最後の吹奏楽コンクールとなる3年生たちは気合いが違っていた。
うちの学校の吹奏楽部は毎年、地区大会は難なく通過するものの、県大会を抜けて支部大会にまで進んだことがない。
長年、県大会銀賞が定位置だったのが、ここ数年は『ダメ金』が続いている。『ダメ金』というのは、金賞を獲っても代表には選ばれないことを言う。
みんな、今年こそは!と意気込んでいたのに……。
何てことをしてしまったんだろう。俺の人生終わったな。絶望で手の震えが止まらないし、足も痛い。
……ん? 足が痛い?
ふと自分の足を見下ろすと、誰かの足にギュウギュウと踏まれていた。
その足の主は――
(森先輩!)
左隣でバスドラムを演奏中の森大輔先輩は、目で何かを訴えていた。よく見ると、黒目が左右に動いていて……。
(ヤバい! 楽譜をめくらないと!)
やっと気づいた。手が離せない森先輩の代わりに、俺が楽譜をめくることになっていたのだ。
慌てて手を伸ばそうとして、もうひとつ忘れていたことに気がついた。
(シンバル持ったままだったー!!)
目の前にある合わせシンバル用スタンドに急いで、しかしぶつけないよう慎重に下ろし、今度こそ楽譜に手を掛けたのだが、ハタと困ってしまった。
(……今ドコ……?)
シンバルのミスに動揺していた俺は、茫然とするあまり、みんなの演奏が聴こえていなかったのだ。
楽譜をめくる箇所は自由曲の中間部。テンポは遅い。
ようやく俺の耳に入ってきたのは、同じ音型の繰り返し部分で、指揮を見たところで何小節目なのかさっぱりわからない。
この自由曲を練習し始めた頃、小節の数え間違いはよくあった。その度に、森先輩は声を出してカウントしてくれたけれど……。
今は本番。森先輩もさすがに声は出せないし、表情だけで数字までは伝えられない。
(どどど、どうしよう!)
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