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invisible
僕は透明人間だ。
誰にも見えない。
父さんにも母さんにも、もちろん兄妹にも。
うちの飼い犬ですら、僕には気づかない。
ふふ、きっと匂いすらしないんだろうな。
家の中だけじゃない。
学校でだって。
同級生や、担任の先生、誰もかれも僕のことが見えない。
昼食の時間、皆は友達同士仲良く机を並べて、お弁当を食べる。
でも、誰からも見えない僕は、たった一人の机でパンをかじる。
寂しいんじゃないかって?
どうしてさ?自由を謳歌出来ていいじゃないか?
けして誰にも邪魔されない。そう誰にもね。
なんだって?君たちが友だちになってくれるっていうのかい?
この僕の初めての友人に?
これまで独りぼっちだったこの僕に仲間が出来た。
僕は毎日彼らと待ち合わせして、彼らは毎日僕と遊んだ。
感想?なんて言えばいいのだろう。
奇妙な感情だった。嬉しいような、嬉しくないような。
彼らは僕を友だちと呼び、僕は毎日金をせびられた。
僕も彼らを友だちと呼んだが、その度に毎日殴られた。
身体の見えない場所はいつの間にか痣だらけになっていた。
一昨日は公園でプロレス遊びをして、固い地面にスープレックスで落とされ、首を羽交い締めにされ絞め落とされた。
昨日は、霜の降り立つ早朝に橋の欄干から氷点下の川に突き落とされて、心臓が凍りつく寸前でなんとか岸まで辿り着いた。
もう駄目だ。これ以上はもたない。きっと今日にも僕は命を落とす。どうあっても死ぬしかない。
そして友だちである彼らもまた、今日終わらせるつもりに違いない。
だってもう、これ以上は付き合えきれないとお互いに解っている筈だから。
僕らにはもはや時間は遺されていない。
タイムリミットだった。
それでも、僕は呼び出された河原に向かう。
もう自分の意思では何も考えられなかったんだ。
勿論彼らも完全に歯止めが効かない。
ほらほら見てよう。
父さん、母さん、兄さんに妹よ、学校の先生、同級生のみんな、そして愛犬のコロ。
首の静脈から胴を伝い、手足の先まで鮮やかな血が滴り落ちて、全身が美しい真っ赤に染まっているのが、みんなにもよく見えるだろう?
僕はもう、透明人間なんかじゃない。
透明人間じゃないんだ。
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