エピローグ

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「こんなこと言うの、本当は職務上どうかと思うんですけど……」 「はい?」 「お腹少し触ってもいいですか? 妊娠した女性を間近で見るの、お恥ずかしいですが初めてで……」 「ふふ、いいですよ」  少し立ち止まった時だった。きり、と痛みが下腹部に走った。 「え?」  まさか、と思った。  顔を強ばらせた私に、宇梶さんがきょとんとしている。 「う、宇梶さん、すみません」  予定日まで、まだ一ヶ月もある。なのに、この鈍い痛みに嫌な予感がした。 「どうしました?」 「すみません……、陣痛が来てしまったみたいです」 「え、えええっ」  驚いた顔で宇梶さんが急にあたふたとし始める。当然の反応だと思いつつ、逆に目の前に慌てる人がいると冷静にもなれた。 「あの、宇梶さん。とりあえず救急車、呼んでもらえませんか?」 「は、はははいっ!」  そして母の名前も伝え、私は近くのベンチに座る。  腰が重く、まるで生理痛のように痛みが波でやってくる。こんなところで破水はしたくない。 「チサト、もう少し頑張ってね……」  そうなだめながら、ホームの向こうの青空を見上げる。何か気を紛らわせようとして、そしてマキリのことを思い出した。  本当はいけないのかもしれないけれど、カムイからの贈り物であるマキリを一瞬たりとも身から離したことはなかった。腰に結わえつけてあるそれを手にぐっと握りしめ、痛みに耐える。  カムイとの子がもうすぐ生まれる。  一ヶ月も早いのは不安だったけれど、それでもカムイの大きな忘れ形見には違いなかった。  十分間隔に陣痛がやってくる。かすかに脂汗をかきながら、私はマキリに祈った。 「お願い、カムイ。チサトが元気で生まれてきますように……」  構内がざわつく気配に満ちて、改札の方から母と宇梶さん、そして救急隊員が走ってくるのが見えた。 「お母さん」 「予定日まで一ヶ月以上あるじゃない!」 「とにかく時任さん、立てますか? かかりつけは二風谷の方とのことですが、遠いので、近くの産婦人科に搬送しますが、大丈夫ですか?」
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