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「千世、そろそろ寛子フチに挨拶に行こう?」
「そうね」
そう言って賢吾さんから離れて、笑う。
「こんな顔で会いにいったら、また心配されちゃう……」
「むしろ、僕が怒られると思うよ。寛子フチはいつだって千世の味方だから。僕の遠縁なのにさ……」
小さく賢吾さんが笑いながら、私から千沙斗を降ろすと私との間で千沙斗の手を繋いだ。
その時、チャシの向こうに広がる果てのない大地から、心地いい風が抜けていった。
レラだと思った。とても柔らかく爽やかなレラが祝福している。
出産して以降、私はかつて感じ取っていたすべての自然のカムイの気配を前ほどには感じられなくなっていた。もちろんレラの声もレラの気配もその光も。
「あれ、このチキサニ、新しい芽が出ているよ。ほら、この切り株のここに」
太く美しく聳えていたシシリムカカムイの依りどころだったハルニレ。
枝葉を落とされ、カムイを失った哀しみに叫ぶように遺跡整備の途上で縦に避けたハルニレ。
寛子フチたちの願いで切り株のみ残されたその端に、小さな緑の芽が風に揺れていた。
チャシの向こう、この土地に生きるあらゆるカムイの祝福を受けるように、優しく、柔らかく。
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