御神木

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 吉田を助けたいとは思うものの、助ければ今度は自分がターゲットになってしまうので、皆、見て見ぬフリをしていたのだ。  しかし、高橋が吉田の胸倉を掴んで殴ろうとした瞬間、彼は怯えるどころか、鼻で笑った。  自分よりもレベルが低いと思っている吉田の、小馬鹿にしたような態度が気に喰わない高橋は、殴ろうとした手を止め、眉間に皺を寄せた。 「何が可笑しい?」  低い声で問う。 「いやぁ。弱い者にしか威張れないなんて……クックック……」  雑魚に嘲笑された高橋の怒りは当然増す。 「てめぇ! どういう事だよ!」  顔を真っ赤にさせて怒鳴り散らすガキ大将に対し、吉田は未だに笑い続ける。 「クックック……だって……“高橋くん”も信じちゃってるんだろ?」 「何をだ?」 「……あの……『楠』の噂」  やけに低い声で漏らした彼の一言は、周りで囃し立てていた高橋のツレらだけでなく、見て見ぬフリを決め込んでいたクラスメイトの動きさえも止めた。  一瞬でシーンと静まり返る教室。  廊下や両隣の教室からは、楽しい笑い声や、はしゃいでいる声が聞こえるのに、この教室だけが、まるで別の空間になったかのように、空気が固まっていた。  一秒が十秒に。  十秒が何十秒に感じられる程、緊張感が高まる。  その空気を破ったのは、やはり吉田だった。 「クック……なぁんだ。“あの高橋くん”も、結局、腰抜けかぁ~」  挑発するような彼の態度に、とうとう高橋もプチっとキレた。 「うっせぇぇ! オメェだってだろぉがぁ!」  顏を真っ赤にして怒鳴るクラスの王様に対し、吉田は怯えることなく、愉快そうに笑いだしたかと思えば、ポケットから何かを取り出し、憤慨する彼に差し出した。
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