御神木

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「うるせぇぇぇぇぇぇ! なぁろぉ!」  正気を失い、目の前にあった楠の枝を勢いよく折ってしまった。  乾いた音が鳴り響いた後、周りは絶句した。  散々焚き付けていた吉田ですら、口を半開きにして一点を見つめている。  その様子からも、これは流石に“やばい”と思ったのだろう。  なぜなら、高橋が折った枝から、赤い汁が、ポトリ、ポトリ……と、垂れていたのだから。 「うぁぁぁぁぁぁぁぁあ」  僕達は一目散にその場から逃げた。  勿論、高橋も。  とっくに授業は始まっていたので、当然のことながら、教室に走り逃げてきた僕らはこっぴどく先生に叱られた。  しかし。  皆で一緒に逃げてきた筈だというのに。  いいや。  本当に一緒に逃げてきたのか?  僕達は校舎裏から教室に戻る間に、高橋の後ろ姿を見たか?  あいつは運動神経だっていい。  いくら逃げ遅れたとしても、のろまな僕なんて、すぐに追いつき追い抜く筈だ。    彼がどこから居なくなったのかを思い出そうとするが、混乱する頭ではどうにも思い出す事が出来ない。  ただ、高橋の姿だけが、教室のどこにも無かった。
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