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「……だめ、か」
ボクは最後の頼みの綱、一番親しい男友達二人にお礼の言葉を送って顔を上げた。どっちも「そんなの放っとけばいい」なんて風なそっけない返事で相手にもされなかった。
「まー、しょうがないよ、普通こんなことに首突っ込まないって!」と、ボクは「その人」から肩を叩かれる。
「あのですね……」
小言を言おうとして開きかけた口を、何もせずに閉じた。目の前の「その人」の、かわいらしく首をかしげる仕草に呆れたからだ。そしてそのまま、ボクは肩の手を振り払った……そう、結局、興味を示してくれたのは、この、都市伝説研究会のルミナ先輩、ただ一人だけというわけだった。
「というかボク、連絡すらしてませんよね?」
「人づてに聞いた」
「誰にですか」
「んー、味方を売り渡すような真似はしないよ」
と、そこで彼女は男性の方に余所行きの満面の笑みを浮かべて、「どうも、挨拶が遅れまして、よろしく!」と、あいさつに勢いよく手をさしだした。
「えーと、こ、こちらが……?」
「私、こういうものです」
手作りにしては妙にきれいな名刺をすかさず出す。
「ごていねいにどうも、俺は掛頭、掛頭良人だ……」
彼は荒れた指先でそれを受け取ると、読むこともなくポケットへしまった。矢継ぎ早に、「それでどうすれば……?」と、周囲を警戒しながらこぼす。ボクもつられて周りを確認してみるけれど、駅員と掃除の職員らしき人以外はひと気がなく、朝のラッシュ時とは思えないくらい静かだった。多分、ひと波がすぎたのだろう。
「んー、まずは行ってみますか」とルミナ先輩。
「どこにですか」
「場所、特定できてるんでしょう?」
「あ、ああ……ちょっとまってくれ、えーと、これだこれ……」
掛頭はさっき名刺をしまったのとは反対側の、深そうなコートのポケットへ手を突っ込む。
「これだ、こいつが主犯なんだ……」
取り出された一枚の写真を先輩は覗き込んで、いかにもな感じで顎に手を当てはじめた。頭越しに覗き込むと、写真には、まだボクらと変わらないくらいに見える金髪の青年が映っていて、飲み会中の一場面だろうか、大笑いしている若者達を背景に、赤ら顔でピースしている。
「自宅はここから近いらしい」
「確実ですかね」と、先輩が疑いのまなざしを向ける。
「ああ、まあ……住所は自分で言っていたから、多分、間違いない」
「へー、そういうタイプの人ですか……ちょっと」
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