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「なんですか」
彼女はボクの手首を掴んで無理矢理開かせ、そこに一つ、二つ折りにされた、なんだか懐かしい感じの携帯電話をねじ込んだ。
「これは」
「ちょっと検索してみて、この住所」と、写真の裏に書いてあった走り書きのメモを示す。
「……え? あ、ホントだ、えーと、東京都――」
さっきの一瞬、翻った裏側を見逃さない洞察力は流石だと思った。けれど、使うアイテムが時々妙に古めかしくて、寒いからといって湯たんぽを膝に抱えていたり、財布はがま口だし、チグハグな人だと思う。
「なにボーっとしてるの、早く早く」
「あ、ハイ、えーと……」
とにかく、そんな彼女に渡されたボタン式の電話なんて、親が使っていたのを見たことがあるくらいで勝手が分からず、何故こんな苦労を、と思いながら打ち込んでいく。外側だけならまだしも、中身だって、予測変換が的外れで邪魔にすら感じた。二人になぜか黙ったまま見守られながら電車が一回通り過ぎ、先輩が喉が渇いたとか言ってジュースを人数分買ってきて戻ってきて、それからさらに人ごみが吐き出された頃、ようやくボクはその住所での検索を終えていた。
「あの……なんでこんな古いのを」
「いや、現役でしょ? 実際使えたし。ガラパゴスとか不名誉な烙印押されてさ……そう思いません?」
「確かにそうだな、今の若いもんは飽きが早すぎる、それに比べて、キミは良くできたよ」
「は、はあ……」
偉そうに上から賞賛された。意気投合する二人についていけずに検索結果を眺めていると、それらしいアカウントが一つ、見つかった。
「――知ってます? ケータイに関する都市伝説も、今では全部スマホに入れ替わっちゃってるんですよ」
「なるほどなあ」
「先輩」
「ホント、まるで幽霊みたいになかったことにされてる」
「先輩、これじゃないですか」
「大体ですね――え? なに? 見つけた?」
語りモードになっていた彼女を引き戻すと、適当によくやったとか何とか言いながらそのガラケーとやらを奪われる。 掛頭さんが揚々と覗き込む。
「ああ、これだこれだ」
「ふーん、かなり頻繁につぶやいているみたいですね……」
「ああ、それでいきなり絡んできて、仲間とか友達だとかがどんどん集まって」
「ふむふむ……」
ルミナ先輩は慣れた手つきでボタンを操作してメーッセージやらアドレスやら投稿写真やらをしらべている。
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