一、忍びか?

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 もちろん、常人の目や耳では満足に見聞きの叶わない距離である。 それでいて彼らは、望遠鏡を覗いているわけでもなく、集音マイクを構えているわけでもないのに、四百メートル先のやり取りを、見て、聞いたのだ。  ーーちなみに象は、低周波を用いて、実に八キロメートルも先にいる仲間ともコミュニケーションをとることが出来ると言う。  これは、音の波が小さい低周波が障害物に当たり難く、よって、より遠くにまで届くという性質を持っている為に可能となる会話法だが、しかし、老婆と警備員の会話は低周波にあらず、無論、二人の影の耳も象のように大きくはない。  もしも彼らが、超薄型の望遠レンズを、コンタクトレンズのように直接その瞳に装着していたのなら、また、超小型の集音マイクを、耳の穴の奥底にスッポリとはめ込んでいたのなら、その科学力には驚愕だが、それらを使用せずに、四百メートル先の出来事を見て、聞いたのならば、それこそ唖然。どちらにしても彼らは、常人離れした、超人的な視力と聴力を持っているらしい。  その二人の影が、老婆と警備員の死を見届けてから数瞬、ほぼ同時に、思わず呟いた。 「功庵(こうあん)のおっさんがやられた・・・」 「おかめ婆さんがやられた・・・」  それから二人の影は、音もなく、風と共にその場から消えた。
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