2人が本棚に入れています
本棚に追加
2月14日。午後11時50分。
「残り10分だな」
それは、あたしが人間でいられるわずかな時間。
あたしはいつも、ハヤトと一緒にいる猫だ。
たった1日だけ、あたしを魔法で人間に変身させてくれた魔法使いのハヤト。
「人間界って、ふしぎなイベントがあるんだね」
「ん?」
「今日はバレンタインデーっていうんでしょ?」
「ああ、そうだな」
「……ボンボンショコラ。買ってみた」
「今のうちにもらってやってもいいぞ」
「これは自分で食べるのっ」
「猫がチョコなんて食えるのか?」
「今は人間だからっ、猫でも食べられる!」
「あっそ」
もうすぐ魔法が解ける。
あたしの心にかけられた、束の間の魔法も。
……ハヤト。
猫に戻ったら、もう話せなくなる。
だから、今のうちに。
人間として触れ合えるうちに。
「……一粒だけなら、食べてもいいよ?」
これがあたしの気持ち。
最初のコメントを投稿しよう!