第1章

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 2月14日。午後11時50分。 「残り10分だな」  それは、あたしが人間でいられるわずかな時間。  あたしはいつも、ハヤトと一緒にいる猫だ。  たった1日だけ、あたしを魔法で人間に変身させてくれた魔法使いのハヤト。 「人間界って、ふしぎなイベントがあるんだね」 「ん?」 「今日はバレンタインデーっていうんでしょ?」 「ああ、そうだな」 「……ボンボンショコラ。買ってみた」 「今のうちにもらってやってもいいぞ」 「これは自分で食べるのっ」 「猫がチョコなんて食えるのか?」 「今は人間だからっ、猫でも食べられる!」 「あっそ」  もうすぐ魔法が解ける。  あたしの心にかけられた、束の間の魔法も。  ……ハヤト。  猫に戻ったら、もう話せなくなる。  だから、今のうちに。  人間として触れ合えるうちに。   「……一粒だけなら、食べてもいいよ?」  これがあたしの気持ち。
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