第1章

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 僕は二匹の犬と中年女性が公園から出て行くのを見届け、少女のもとへ行き、声をかけた。 「お花、潰れちゃったね」  頷きながら、うんと答える。 「困ったね。マナーの悪い人で」  少女は横に首を振った。 「ううん。犬がやったことだもん。仕方ないよ」  健気だ。本当に健気である。余計、中年女に怒りを覚えた。  少女は土を整え、まだ立て直りそうな花を立たせた。僕もそれを手伝った。 「全部の花を一人で育ててるの?」  少女はそうと答える。 「大変だね。ところで、今日、がっ……」  そこまで言いかけて、止める。僕は自分が言われて嫌な質問をする所だった。けれど、今日の後に続く言葉が、いい天気だねしか思いつかない。  悩んだあげく、僕はつい口を滑らせてしまい、言いかけた言葉を結局、言ってしまう。 「学校は……お休みなの?」  少女と僕は違う。真面目な子が学校をサボるわけがないと考え直した。 「もう、しばらくの間は学校に行かないの」  僕は驚き弁解するように同意する。 「俺もそうだよ。学校に行ってないよ」  少女は目を丸くして訊ねる。 「お兄ちゃんも病気なの?」  唐突な質問をされて、僕は一瞬戸惑う。少女に指を指して訊いた。 「病気なの?」 「うん。お兄ちゃんは違うの?」 「お兄ちゃん? ……うん……お兄ちゃんもね。病気……急にお腹と頭が痛くなるんだ」  嘘は言っていない。僕は少し躊躇いながら質問する。 「言いたくなければ良いんだけど、病気はどんな病気?」 「知らない。難しい病気で頑張れば治るってお母さんは言ってるけど……ホントか分からない。それにね。お母さん病気について話したがらないの」  重い病気なんだなと思った。それでいて親に気を遣っている様子が窺える。 「お父さんとお母さんがね、喧嘩してる時にね。三ヶ月で一緒に遊べなくなるって聞こえたことがあるんだ。ねぇ、お兄ちゃん。この病気の名前、知ってる? あー、嫌だな、遊べなくなるの」  かわいそうって思われるのが一番嫌いだけど僕は少女をかわいそうだと思った。それを悟られるのが嫌で、僕は淡々とした口調で話す。 「ごめん。知らないよ。ところで名前、何ていうの?」 「森井ゆき。お兄ちゃんの名前は?」  僕の名前は変ではないけど、フルネームで言うのはなんか照れくさかった。だから武雄と短く答えた。  それから、僕が年齢を訊く。ゆきは十一歳、小学五年生と分かった。
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