第1章

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 僕の年齢は訊かれなかった。まぁ、それは興味ないだろう。代わりに通っている病院はどこかとゆきに質問された。  僕は困惑する。通院していると言った覚えはない。しかし、勘違いさせたのは僕に非があった。急に頭が痛くなると言えば確かにそう思うだろう。 「ここから、ずっと遠い病院なんだ。言っても分からないと思うけど……近藤病院って所だよ」  僕は嘘をついた。近藤は苗字から名付けた。ゆきは少し考えたのか、間をあけて首を傾けた。愛らしい姿に微笑んでしまう。 「知らない」  ゆきが言うと、僕は質問を訊ね返した。 「私は野中中央病院。もうすぐ、あそこに入院するの」  ゆきは指で病院の位置を示した。指す方向には家があり田畑があり緑がある。彼女の意思はそれより遠くに見える白い建物を指していた。  この辺では一番大きい病院であり、唯一の総合病院であった。 「あの、ここで歌の練習してもいい?」  ゆきは急に話題を変えた。僕は話の流れについていけず、眉を上げて聞こえなかった素振りをする。 「その、時々、この公園で歌の練習をしているんだけど、いつもは人がいなくて……武雄兄ちゃんが迷惑じゃなければ歌の練習をしたいんだ」  ゆきは恐る恐る僕の表情を窺っている。僕は慌てて、二、三度頷いた。 「いいよ。どんどんやって。歌の練習って学校でテストなの?」 「ううん。学校はしばらく休むからテストは受けないの」 「あ、ごめん。そうだったね。じゃあ……どうして?」 「四月に、文化会館で歌の発表会があるの」 「発表会って、合唱? それともゆきちゃん一人で歌うの?」 「一人だよ。参加する人たちは私なんかより、ずうっと上手い人ばっかりだけど、一度で良いからたくさんの人に聴いてもらいたくて。恥ずかしくないように練習するの」  へぇ、と感嘆しながら僕は考える。  ここに僕がいたら練習しづらいよな。それならゲーセンに遊びに行くか。  けれど、少し聴いてみたい気持ちもあった。 「俺、ベンチで少し休んだら帰るから、気にしないで練習して」  僕はベンチに行って腰を下ろした。携帯を取り出して、理由もなく、いじる。  ゆきはおもむろに歌い始めた。  表情を確認したわけではないが、声で雰囲気が分かる。ゆきは人前など気にしないで上手に歌うことに集中している。  どうやら部分的に練習するのではなく、一曲、まるまる歌うらしい。
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