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突然の声に、体に電気が走ったような感覚を受けビクンと体が動いた。
鳥肌が立った。
僕は辺りを見回す。左手には塀があり、右手には竹林。人影は見えなかった。後方も一本道がただ続いているだけで、人は見当たらない。再度、竹林の中を目を凝らして覗いてみるが、やはり人はいなかった。
冷や汗を掻きながら僕は呟く。
「気のせいか」
神様なんているわけがないと言い聞かせる。口端を吊り上げて自嘲的な笑いをした。
「神様がいないと思うなら、どうして願った?」
ハッとなり、恐怖心が僕を支配した。急いで塀に背中を押し付けて竹林を覗く。人っ子一人いない。
だが、頭上の視界に何かが映った。白い足? 僕は視線をゆっくりと上げた。
男が浮いている。男の姿は異様だった。白髪で白い髭をはやし、白い肌で白い布地を使った民族衣装のような、ゆったりとした服を着ていた。それ以外に身に着けているものはなく、靴も履いていなかった。全てが白く見えるのに輪郭ははっきりしている。ただ一つ、目は真っ黒だった。目が強調され力強さを感じた。
浮いている男が口を閉じたまま声を発した。
「失礼な。私は怯える存在じゃないぞ」
幻聴かもしれないが声は確かに聞こえる。
「そんな登場、誰だってびびるだろ」
僕はぶっきら棒に言った。
男から笑う声が聞こえる。無表情で口も動いていない。
「なんだよこれ! かっくんだろ。それとも植松か」
日々、僕に悪戯している人の名前を挙げた。
「私は時空を操るものだ。自己紹介している暇はないのでな。とりあえず神と呼んでいい」
僕は塀に体をおしつけたまま辺りを見回す。少しイライラして思考を廻らす。
どんなマジックで浮いてんだ。どこに仕掛けがある。
「仕掛けなんてない。疑り深いやつだな、お前は」
心を読んだのか?
「心ぐらい読めるわ」
本当かよ。
一瞬躊躇い、心の中で強く言う。それなら消えろよ、と。
「随分な言い方だ。助けてくれと拝んだのはお前だろう」
また心を読まれた。それに、確かに僕は拝んだ。
「まじかよ。なんだこれ。ちょっと……いや、一つ質問するけど、俺が頼んだ内容はなにか分かる?」
「お前の命と引き換えにゆきの病気を治せと。べそをかきながら」
「うぇ。ホントに神様なのか」
「神ではないが、そう呼んだ方が何かと都合が良いだろう。時空の神と呼んで欲しい」
嘘だろ。これは夢じゃないのか。
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