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僕は内容を確認しようとしたが、時空の神は僕を無視して沈黙した。もう一度訊いてみようと思ったがとどめた。
表情を全く動かさない神にとって沈黙がイエスという返事らしい。そう勝手に解釈した。
パラレルワールドなんて現実味のない話だ。だが、体が宙に浮いていて心を読む男の存在がある限り、嘘だと思い込むわけにはいかなかった。
話を聞いた中では僕にリスクはない。仮に信じても不利益を被らないのだ。
僕は時空の神に深々と頭をさげた。
「時空の神様、お願いします」
「まだ話は終わってない。大事なのはここからだぞ」
何だよ、と僕は思いながらも小声で謝辞を入れて耳を傾ける。
「この世界にいる、十一歳のゆきはあと一ヶ月で亡くなる」
三ヶ月じゃないのか、と心の中で呟いた。
「医者が何を言おうが一ヶ月は一ヶ月」
時空の神は口を閉じたまま咳払いをしたような音を出した。そして話を続ける。
「もう一つの世界にいるゆきは現在、二十五歳。癌を患っていて余命一年を切っている。十一歳のゆきを発表会に参加させるには、できるだけ長く、最低でも半年は二十五歳のゆきから余命を取らなければならない。それでもいいか?」
僕は焦った。
「ちょっとまってくれよ。どうしてわざわざ死にそうなゆきちゃんを選ぶんだ? 三十人いるんだろ? すげぇ長生きするゆきちゃんを選べば良いだろ?」
「長生きするゆきも数人はいるだろう。だが私にできることはかぎられている。発表会に出席させる方法はそれしかないのだ」
呆れ顔で僕は言葉を返す。
「何だよ、それ」
「さらに、余命を移すためには二十五歳のゆきの了承を得られなければできない」
同じ言葉だが強めに吐き捨てる。
「何だよ、それ」
少ない余命を渡す人間がいるのかよ。絶対、嫌だと言うに違いない。
僕の苛立ちを無視して時空の神は話し続けた。
「近藤武雄。お前が二十五歳のゆきと交渉をして承諾を得るんだ」
僕は三度、同じ言葉を発しようとしたが、それでは済まない話だ。
「俺?」
そうだ、と時空の神は短く言い切る。
僕は一拍置いて訊ねた。
「何で俺なんだよ。神様じゃだめなのかよ」
「お前が願っただろう。そして私にできることは限られている。可能な行動はお前を二十五歳のゆきがいる世界に飛ばすことだ」
これ以上の質問は無駄だと言わんばかりの回答だった。
時空の神は僕に紙を手渡した。
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