透明だってさ

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 夕暮れが長い影を作る。運動部の姿を横目にしながら、空き始めたお腹を撫でた。ポケットに手を入れれば、ちゃりんと音が鳴る。金額を確認して、コンビニに寄ることにした。 「いらっしゃいませ」  店員の声が響く店内で、どのお菓子を買うか迷っていると悲鳴が上がる。刃物を手にした男が店員に詰め寄っていた。 「マジか……」  ひくり、と頬を引きつらせて運の悪さに頭を抱えたくなる。なんでこんな時間帯に、と心の中で文句を呟きながら犯人の様子を見つめる。 「余計なことしようと思うなよ。どうなるか、わかっているよな?」  刃物をちらつかせる犯人は、マスクも被り物もしていない。顔を隠す必要などないのだろう。なにせ、犯人は透明人間だ。  舌打ちしながら、俺はどうするべきか震えそうになる気持ちを押し込める。  店内を見渡せば、自分のところから男性が見えた。携帯を取り出そうとしているのだろう。ポケットに手を入れている。助けを呼べるのか、期待を込めて見ていると焦りと恐怖から震える手は、床に携帯を落下させた。 「おい、お前! いい度胸じゃないか」  勇気を持って助けを呼ぼうとした男性は、近付いてきた犯人に殴られ、雑誌コーナーに叩きつけられる。落ちた携帯を踏みつけ、咳き込む男性の頬に犯人が凶器を軽く当てる。
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