透明だってさ

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 犯人は無事に逮捕され、怪我をしていた男性は病院に運ばれたそうだ。あの男性の行動は、無駄ではなかった。  携帯で警察に連絡を入れたが、堂々と手に持って話すことはなかった彼は通話のままにしていたらしい。通話口からの聞こえる内容に、危険性を感じて警察が動いた。携帯は踏み壊されてしまったが、助けを呼ぶことに成功していたのだ。  そのことに、感謝の思いが溢れてくる。  助けを呼んだ彼の勇気。電話を受けた職員の行動。素早く動いてくれた警察――どれか一つでも欠けていたら、俺は怪我をしていただろう。下手をすると死んでいた。 「父さん、怪我は大丈夫? でも、まさか父さんがいるなんて思ってもみなかった」  犯人の凶器を素手で止めた父は、怪我をしてしまった。心配になって見つめれば、包帯を巻いた手を揺らして父が「平気だ」と笑う。 「透明なことを利用して、馬鹿なことをしでかす奴らがいるだろう? それを取り締まるために、働いているんだ」  透明な人間が問題を起こした時に、場所がわかりやすく判別できるよう通常の通報とは別に『透明通報』がある。  透明だからこそ、すぐに逃走して行方をくらませる犯人を逮捕するために張り巡らせた情報共有。特別な包囲網などあるらしいが、犯人に情報が渡ると困るため詳しいことは伏せられている。  その透明通報を男性が使用したため、父があの現場にいたそうだ。透明な犯人には、透明な相手をとのことらしい。職業を知らなかったし、興味がなかったから驚きである。
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