三村 菜乃

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『驚愕の新薬発売!!あなたの人生に希望と夢を?? インビジブル』 そんな、なんとも胡散臭いキャッチフレーズ。店の棚の奥深くに埃を被った状態だったこの薬を見つけたのは、ついさっきのことだった。 私、三村菜乃の住む町……中越市には誰も寄り付かない、もとより行く目的すらないシャッター商店街がある。昔はなにかとこの町のシンボルだったらしいのだが、近年多くのショッピングモールが立ち並んだ今では、中越商店街は昔の遺跡と化していた。 祖父の店、三村薬局があったのもこの商店街で、祖父が倒れてからこの2年、ずっと置き去りだった店の後始末を、と孫の私が言い渡されたのだ。 小さな頃ではあったけど、昔は近所の友達と一緒に、まだ枯れ果てていない商店街で、ワイワイ遊んでいた。そうは言っても、その頃から開いているお店は3.4件でだったんだけど。 「小学校の頃はよく、閉まってる商店街のシャッターを無理やりこじ開けて、秘密基地とかよくしてたっけ……」 20歳の私にしてみれば、小学校の頃なんて無邪気で可愛い年頃だった。思えばあの頃が私の一番の青春時代で、楽しい日々だったのではないかとさえ思えてくる。 「なーに、思い出に浸ってるの。さっさと片付けないと終わんないんだからね」 母親のドスの効いた低い声で、感傷から覚める。ちょっとくらい思い出に浸ってもいいじゃん、と文句を言いたくもなったが、確かにこの散々たる店を2人で片付けるとなると、とても休んでいる暇などないことは分かる。渋々、作業に戻った。 .
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