1章

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 クーラーの設定温度はマイナスに突入する勢いだった。それでもなお暑い。汗が至る所から噴出し、頭の中で色んな感情が沸騰した結果、最終的に「くそ暑い」という感情が残った。クラスは空席が目立ち、先生もぶっちゃけ、やる気がない。とうの俺も、なんでこんな日にまで学校に来ているんだといらいらしていた。自分の足でここまで来たのにもかかわらず。 「はい、ではこれで最後の授業を終わります」 「起立、礼」 「ありがとうございました」  これで先生の脇汗の滲みを見るのも最後なんだな、と無言で頭を下げる。しかし思い直して小さく、「ありがとうございました」と呟いた。だらしなく鞄を提げて、帰ろうとすると、舞子が声を掛けてきた。 「じゃあ、翔ちゃん、また明日ね」 「おう」  もう少しで泣き出しそうな、不安げな表情の彼女に、俺は言うべき言葉が見つからなかった。ごめん、俺だって誰かになにか、救いのある言葉をかけて欲しかった。 「明日、朝から行って良い?」 「いいよ」 「じゃあ」  先に教室を出て行った彼女の後ろ姿を見て、思わず叫んだ。 「お前。暑くないの」  スカートを翻して振り返った彼女は驚いた表情で、 「確かに……暑くない。翔ちゃんは暑いの?」 「当たり前だろ、何度だと思ってるんだよ、汗でビショビショだわ」  舞子はくすっと笑い、俺もなんだか可笑しくなったが、同時に何故だか悲しさもこみ上げてきた。いかん、泣きそうだった。 「ま、どうでもいいや、じゃあな」  次の日、インターホンが鳴ってドアを開けると、白いスカートに黒いポロシャツを着た舞子がいた。 「おう、相変わらず涼しげだな」 「なんかね、この気候になれちゃったみたい」 「そうか、まあ入れよ」  舞子を家に上がらせる。お茶を出して、一応のおもてなしをする。今日はもうテレビもやってなければ、ラジオもやっていない。今日くらいは大切な人とちゃんと喋って、楽しめってか。こんな日に、お喋りだなんて悠長に楽しんでいられるか。そんな気持ちが思わず、口を突いて出てきた。 「あーあ、最悪だな、この世の終わりだなんて」 「そんなことないよ、ようやくこの世が終わってくれる」
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