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「あのね、本当は私も最悪って思ってるよ」
俺は寝袋の戻りたかったが、今まで無言だった彼女が口を開いたので聞いてみることにした。
「だって……」
そこまで言うと、舞子の目から涙が一滴、零れ落ちた。その一滴が頬を伝って顎に到達する頃、次の涙が、そして次から次へ涙が溢れて、顔を崩して、嗚咽を漏らして泣き始めた。
「だって…」
「もう、あなたに会えない」
俺の目からも涙が出始めたのだろう。視界が滲んだ。顔を手で覆っている舞子を見ていると、本当に、もう会えないのかなと不思議でたまらなくて、悲しくて胸が痛かった。けど、ただ、もう熱かった。半ば崩れるように舞子に抱きつく。
「舞子、ありがとう。あともう少しだけ、俺と一緒にいてくれ」
途中から声が震えた。舞子に、舞子の肩にしがみついて、泣きじゃくった。本当は、何もかも怖かった。怖さに気づかないふりして、お互い知らんぷりをしていた。怖さに踏みだすにも、怖かった。死ぬのが、怖い。誰の記憶にも残らないのが、怖い。俺たち、まるまるいなくなっちゃうんだよ。怖すぎるだろ、舞子…。もっと生きてたい。死にたくない。夢だと思いたい……。
「ねえ、翔ちゃん熱い、熱いよ」
叫ぶ、ぼろぼろの舞子の声。
「中に、入ろう」
彼女から自分の体を剥がして、本当に最後に舞子の顔を見た。そしてお互い隠し事がない証拠にキスをした。それから睡眠誘導剤を飲んで、俺たちは棺桶に入り、二人で一緒に太陽に焼かれた。
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