電子霊障

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たかがゲームをひとつアンインストールするくらい。真奈にとってはそうなのだろう。でも、風太にとっては違う。もう一度、真奈と一緒に『ビースト・ブレイド』をやりたい。誰からも何からも必要とされない孤独な現実の中で、支えになるのは過去の思い出だけだった。その思い出があったから、今日まで曲がりなりにも机に噛り付いてきたのだ。 『ビースト・ブレイド』にログインしなくなってから、三か月もの時間が経った。 あの世界で、風太は間違いなく主人公だった。レベルは既に98。何万といる他のプレイヤーの中でさえトップクラスの実力と経歴を持ち合わせていた。あっちの世界なら、風太は今と真逆の存在だった。誰からも必要とされる存在だった。何より、現実世界では才色兼備を絵に描いたような真奈を守ってやれるのは、あっちの世界だけだった。 それを真奈に否定されるのは、耐え難かった。 「あれは、俺とお前を引き合わせてくれた大事なゲームだろ? なんでアンストまでする必要があるんだよ。お前にとって、俺と過ごした時間はその程度だったのかよ!」 「違うから言ってるんでしょ! プーの方こそ、私の価値はあのゲームだけなの!? 学年は違っちゃうけど同じ大学に入って! 一緒に勉強したりデートしたりしようよ! 温泉とか海とか旅行しようよ!!」 「……っ!!」 それじゃ駄目なのだ。今日、真奈に会って思い知った。 「東京、楽しいんだろ……?」 「え?」 「だから、アンストなんて簡単に口にできるんだ……!」 誰からも必要とされない毎日を送る風太と、東京で大学生活を送る真奈。三か月で目を合わせられないくらい引き離されたのに、一年も出遅れたらいったいどうなるのだろう。 「もう、帰ってくんなよ」 真奈は優等生で、実力者で、才媛だ。風太とでは、ただでさえつり合わないのに。たぶん、もう風太が彼女とつり合うのは、あのゲームの中だけなのだ。 「俺はもう、【プ~さん】でいいよ……」 「駄目、……だめ、プー……!!」 突然、真奈が血相を変えた。 「そっち行っちゃだめ!! アンインストールして、今すぐ!!」 「なっ、お、おい!!」 座卓から勢いよく立ち上がった真奈が、机の上に置いてあった風太のスマートフォンに手を伸ばした。 消される。 【プ~さん】が、唯一真奈と対等でいられる自分が、消される。  
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