【1.探究心は終わらない】

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 駅前ドーナツショップ・ミセスドでしばし担当と話し、彼が先に本社へ帰っていった。メモ代わりに持ち歩いているLOOX-Uを起動する。スマートフォンが急速に普及する中、ポケットPCなんて時代遅れだと友人知人果ては親類にまで言われる始末だが、タッチパネル入力の扱い辛さを思えばキーボードの文字入力は絶対に手放せない。だからといってスマホにコードを繋げて簡易キーボードをくっつけるなんて言語道断だ。携帯電話は通信を行うためにあるのだ、特殊な入力方法を取ることでバッテリーが底を尽きてしまっては元も子もないではないか。  何故ここまで文字入力にこだわっているかというと、自分――信原ゆずるが日々ワードプロセッサにお世話になりっぱなしの職業だからである。  あまり売れたためしのない推理小説を性懲りもなく書き続ける、推理作家……のつもりだ。未だフリーターを脱しきれていないと自分では思っているものの、ひとまず赤字にも大幅黒字にもならない程度のゆるい売り上げを繰り返しては毎日を過ごしている。
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