【1.探究心は終わらない】

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 ひたすら趣味を追いたいという欲望のもと、大学院まで進んで暗号学を専攻したゆずるは、暗号を作るのも解くのも好きでたまらない。誰にも解かせはしないという意気込みで、平文へ幾重にもエンクリプトを重ねて意味不明な文字列にしていく時の興奮。作成者によってエンクリプションされた秘密を、単字レベルでじわじわと解きほぐしていく時の快感。どちらも一度味わえばもう戻れない、麻薬のようなものである。正直なところ、異性や物欲などよりもよっぽどゆずるの頭を占めているのだ。  拾ったコピー用紙に印刷されていたのは意味を成さない文字列で、目に入った瞬間ぞくりと肌が泡立った。長文で法則性がなく、単純な頻度分析もあてにならなさげなこれは、実は換字式暗号の特徴になっている。カエサル、違うな、シーザーの類であることは間違いない……待てよ、ひょっとしてキーフレーズを用いた……、  試行錯誤は、帰宅してから約三時間続いた。  そうして解読した暗号は、これまた意味を成さない単語の集まりだった。その中で地名らしきものを見つけ、そこへ行けば何か新しく掴めるだろうかと目を輝かせる。 「セントラルプロ……二丁目のオフィスビルか」
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