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誰とすれ違おうが関係者か否かなど判別できないだろうし、そもそも別に後ろ暗い行為ではないのだが、それでも何の用もない自分がここにオフィスを借りている企業の関係者と鉢合わせになるのは少し気まずい。勇み足で来ておきながら、いまさらになって屋上でちょっと考えよう、なんて腰が引けてしまっているのだった。
それにしても、あの暗号は何を示していたものなのだろうか。もう一度確認しようかとジーンズのポケットを探るが、見当たらない。部屋に忘れてきてしまったらしい。まあ、帰ってからでもいいか。
たあん、と到着のベルとともにドアが開く。誰もいないビルの屋上は夜の街明かりを静かに見下ろしていて……なんてことはなく、夏場にも関わらずとにかく風の音がごうごう煩かった。ビル風もこれほど酷いと突風とさえ言えそうにない。寒い、痛い。こんなところに何があるでもなし、と、早速好奇心だけでここへ赴いたことを後悔し始める。ああ、せめてシャツとジーンズだけではなく、上着を持ってきていれば。後悔は先に立たないから後で悔やむと書くのだ。馬鹿め。
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