記録3 主婦

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 若者は答える。  「なんか中学生の間で噂になってるらしいですよ。しかもそれを今夜友達と探しに行く、なんて言ってまして」  「ハア!?」  荒げた声を発したのは和暉。祥子は思わず身体を震わせそちらを見た。若者も同じような挙動をする。  「あ、い、いや……」  不審な言動は避けたほうがいい、と。冷静になったような和暉はぎこちない作り笑いを浮かべて首を振った。  「私も注意したんですけどね。スタンドバイミーじゃあるまいし、警察に言えって」  「け、警察ッ?」  思わず祥子も声帯を震わせた。 「え、ええ。弟は見つけたら通報するなんて言ってましたけど……」 真っ白な頭の中でただ冷たい感覚だけが巡る。まずい、という言葉だけが浮かんでは消える。  「おい祥子!」  和暉がまたもや大声を発し、祥子はそれにビクリと反応した。  「お前行って止めてこい!!」  もはや業者のことなど考えていないようだった。なりふり構わない様子で和暉は叫ぶ。が、しかし。  「い、嫌よ! アンタが行って!」  祥子の足は動かなかった。代わりに和暉の怒号が飛ぶ。  「こッ、のクソ女! 使えねえなクソ!!」 そして和暉は乱暴に祥子、そして若者を押しのけると。サンダルを履いて外へ飛び出して行った。焦った足音が遠ざかっていくのがわかる。  残ったのは静寂。その中で、祥子は自分の心臓がはち切れんばかりに暴れているのを感じていた。  と、そこへ。  ガチャン、と。金属音を聞いてさらに心臓は大きく跳ねた。若いガス業者だ。彼のことを完全に忘れていた。今の和暉とのやりとりは不審以外の何物でもない。何か言い訳をしなければ。
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