記録3 主婦

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 「あ、アイツちょっと頭おかしくてさ」  こんなんじゃ到底ダメだということは理解できている。が、他に何も思いつかない。  「たまにあるんだよね、ああやって意味不明なこと言うの」  誤魔化せている気が全くしない。だが何も言わないわけにもいかない。祥子はさらに言葉を続けようと、  「だ、だからさ、何も怪し――――」  したが、  「もういいよ」  それを若者の言葉が両断した。  「――――え?」  思わず間抜けな言葉が出てしまうが、祥子はそんなこと気づかないほどの混乱を感じていた。  そこを彼はさらに追う。  「別にあんたが空き地に行ってくれてもよかったんだけど。どうせあっちも人気ないんだろうし」  「え、人気がないって……え、いや、アンタの弟がいるんじゃ…………」  意味が分からない、という風に。祥子は言葉を詰まらせる。  「嘘」  ここで初めて若者の目を見た。軽蔑の光を灯したその目が祥子の目を突き刺す。  「ふ、ざけないでよ……何意味わかんねえこといってんだ」  これはまずい、と。理解不能ながらも身の危険を感じた祥子はじりじりと玄関へと身体を運ぶ。  が、それを。  「キルコ、タッチだ」  若者の言葉、そしていつの間にか開いていた扉の向こうの暗い瞳が止めた。  「ありがと、壮介」  黒い格好をした少女は、ミシリと音を立てて部屋の中へと侵入した。それと入れ替わりに若者が外へ出る。  「な、なによアンタら……」  祥子は声を震わせるが、その答えは得られることは無く。  「死刑を執行します」  ただ冷たい一言が返ってきた。  言葉の出ない祥子へと。さらに少女は続ける。  「あなたには抵抗する権利があります。あなたの行動が地獄での扱いに影響を及ぼす可能性もあります。…………いいね?」  最後に、祥子の目に映ったのは大きな鎌の刃であった。
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