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ここはどこだ。
灰色の空。灰色の道路。灰色の建物。灰色の空気。
灰色の風景の中を歩んでいた。
自分が住んだことのある街の一角だろうか。そこに見覚えは無かった。
人の姿が一つも見当たらないその風景の中を歩き続ける。やがて足は高架下へと続いた。
相変わらず灰色で、相変わらず人の姿が見えない。勿論、動物の姿も一つとして見ることができない。
高架の影へと足を踏み入れると、違和感を覚えた。深くは考えず、違和感があったからそちらを見ると。
段ボール、ビニールシート、汚れた毛布。
死体。
灰色の視界の中でそれだけが赤く染まっていた。傍らにはナイフが見えた。どこかで見覚えのある小さなナイフ。死体と同じく血にまみれていた。
驚くほどに何も感じなかった。死体を見たというのに何も動じるものがなかった。
何も思えなかった。
そこに死体があった。
ただそれだけを目に収めると再び足を踏み出す。
歩かなければいけないと何かに急かされている気がした。早く歩け。早く早く。と。
早く追いつけ、と。急かされた。
言われるがままに先を歩くと、黒い人影が見えた。モノクロの世界によく馴染んだその背中は何かを思い立たせた。
何か背中のあたりが泡立つような。心が嗚咽をあげた。
「ま、て……)
声が漏れた。自分の物とは思えない。
【待て、って……』
しかしその背中は先へ、先へ。届くことは無かった。
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