記録3 主婦

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―――――――――――――――――――――――――  あれから一週間が経った。井岡の脱獄。そしてヒズミの死から。  "偽国”という名の集団、その残党が絡んでいることは聞いたが、正直ピンとこなかった。しかし、その話しぶりから外道の集まりだということは感じて取れた。  その偽国の残党だが、なかなか捜査は進まないらしく。当然ながら地獄の通常業務も欠いてはいけないということで、死神は魂刈りの仕事をせっせと行っているのだった。  上司のキルコもその例に漏れず、蓮田壮介はその助手として彼女について回っている。  ちなみに自宅のアパートにはあれから帰れていない。理由は簡単で、『井岡健の反応からして蓮田壮介を再び襲う可能性がある』というものだった。  ……確かにあり得る。  と、そんなことを考えていると。  「壮介、どうしたのー? ぼーっとして」  死神キルコのお声がかかった。  「ああ、いやなんでもない」  バスの隣の席から。キルコが髪に隠れていない左側の真っ暗な目を向けているのが、壮介に見えた。  時は夜。放送業界におけるゴールデンタイムの時間帯。お仕事中である。  「そういえば、今日のターゲットはどんな奴なんだ?」  いつものことながら、キルコは聞かれないと何も言わない。『なんで言わなかったかって? 聞かれなかったから』ってやつを実践してくるお方だ。  「今日は田住祥子。主婦だよ」  「主婦……」  キルコの言葉を聞いて反芻する。  「一体何をしたんだ?」  何をしたのか。つまり魂が地獄に連行される理由、魂が汚れた理由は何なのか。  そう問うとキルコは「今世では」と前置きし、簡潔に答えた。  「虐待と殺害」  ピキリ、と。空気が凍った気がした。主婦、虐待、殺害。これは、  「子供、か……」  「うん」  想像以上に重たいものが来た。殺人、死体遺棄、これまでもえげつない案件は見てきたが。さすがに児童虐待は、壮介の心臓を重く圧した。  と、壮介はあることに気がついた。  「こうやってバスで向かってるってことは捕まってもないんだな?」
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