記録3 主婦

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 バスの外の風景には見覚えがある。刑務所があった覚えはない。  「そうだね。確認班からの報告によると、自宅で出産して出生届も出してなかったみたい。そもそも刑務所の対象者は潜入執行官の仕事だしね」  つらつらと。死神の舌が回る。  「遺体は空き地に埋めてあるって。見つかってないのは運がいいからっぽいね」  淡々と。少女はそう言った。  「……なあキルコ」  冷めたような表情の彼女に壮介は呼びかける。  「それって俺達から通報しちゃいけないのか?」  もちろん執行後でいいから、と。答えが見えていることを感じつつも、壮介はキルコに問う。  しかし、やはり。案の定、答えは。  「ダメだよ。死神にその権利は無いんだ。もちろん、その助手の壮介にもね」  想像できてしまっていた故にさらに悔しい。バスの揺れとは関係なく、脳が揺さぶられているような感覚に陥る。  「それって……」  顔をしかめながら、言いかける壮介の言葉をキルコが拾う。  「そんなことを許してたら、犯罪者の不審な死がたくさん露見することになっちゃうでしょ? 地獄の存在を隠すためには、そんなことあっちゃいけないんだよ」  だから、と。彼女は言う。  「地獄の関係者がこっちでの事件解決に干渉することは許されないんだ」  死神として、地獄の公務員として。キルコは説明口調を貫いた。  「…………」  納得しなければいけないのだろう。死神の助手として、キルコのパートナーとして。  仕事を引き受けた覚悟を貫かなければいけないのだろう。  しかし、  「でも……」  やはり、簡単には納得できなかった。  グググ、と。身体に力がかかり、車体が急な角を曲がっているのを感じる。  キルコにも身体を押し付けてしまう形となり、壮介は華奢そうなそれを案じて彼女の方を見た。  すると、キルコの表情が目に入る。否応なしに脳に焼き付いた。  上に隠れているせいで左側半分しか見えないが。しかしその顔は何とも言いがたい、悲しそうな悔しそうな申し訳ないような、そんな表情だった。  壮介の体重など気にせず、彼女は口を開く。  「私はもう慣れちゃったよ。ごめん、壮介も慣れて」  ポツリとキルコ。その言葉に、その顔に。  「…………わかったよ」  壮介は頷くことしかできなかった。
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