捕獲作戦

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―――――――――――――――――――  元本部への入り口は、キルコが壮介とコンビを組んでからよく使っている橋とは大きく違う場所にあった。  そこは荒れ果てた神社。全く管理が行き届いてなく、もはや自然の一部になりかけているようにキルコには見えた。そんな神社としての姿を失いかけつつある神域には、苔にまみれた狛犬が未だに睨みをきかせて向かい合っている。  先に調査をしていた確認班の「罠は無い」という報告を聞きながら、死神プラスアルファの一行は”入り口”に辿りついた。  一行を取り仕切る魔導対策部上級職員の示したそれは、ボロボロの鳥居であった。「ここが、元日本地獄協会本部への入り口である」と、そこにいる総員への連絡をし、後をカガクラが引き継ぐ。  「では、突入組はこちらへ集まってくれるかな? “働き女王蟻”から送られた最新のデータを元に作戦の調整と指示を行うから」  呼びかけられた死神達は自分の上司の元へと集った。作戦開始まで残り90分。その場の人から人へ、ピリピリ静電気のような形で緊張が伝わっているのをキルコは感じ取っていた。  カガクラが作戦をまとめ上げ、それを伝える間、キルコは神社をなんとなく観察していた。  雑草は伸び放題、本殿にはどこから入ったのか枯れ葉が寝そべっているのが見える。誰がどう見ても廃墟のようである。  しかしそれでもこの神社はまだ建築物の形を保っていた。まだ壊れてはいない。崩れてはいない。滅んでは、いない。  今から突入する敵のアジトは崩壊を迎えた街である。十年以上の時を経て、既に地獄の歴史として語られる廃墟である。そして同時に、それらの廃墟は墓標でもあるのだ。いくつもの死を抱え込んだ墓場。  「………………」  そんな場所に潜伏する偽国の残党達に、キルコは呆れに近い感情を抱いていた。皮肉もいいところである。  そこから彼女はさらに連想する。  偽国の残党。奴らが今の時代に現れたことは、ある種の運命である、と。死神キルコ・コフィンズは思う。13年の時を超え、憧れた両親と同じ道を歩むことが出来るのだ。  そして、また。蓮田壮介、彼を助手にしたことも、…………間違いではなかった、運命であったとキルコはそう念じる。そう思わなければ心臓が押し潰されてしまいそうで。キルコは心の中でただひたすらに目をつぶり続けた。
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