記録3 主婦

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 バスを降りると人通りはまばらであった。地図を確認したキルコは周りの風景を見回すと、  「あっちだね」  西を指さした。二人は薄暗い陽の中を歩きだした。  「それでね、壮介。一つ、厄介なことがあるんだ」  歩道を走る自転車を避けながら、キルコは急に口火を切った。  「というと?」  それに壮介が応じると、  「田住祥子には夫がいるんだ」  キルコは言う。  「そいつも当然、虐待に関わってたんだけど、今回の対象者は田住祥子だけなんだよね」  「建築会社の時と同じことか」  皆まで聞かず、壮介はキルコの言いたいことを察した。つまり、死刑執行をするには邪魔な人物がいる、と。キルコはそう言っている。彼女は壮介の言葉に軽く頷いた。  「そうだよ。しかも、ロクに働いてないらしくてね。特に事件後、家から出ないらしいんだ」  「ターゲットの方が外出した時を狙えばいいんじゃないのか?」  壮介は誰でも想いつくような解決方法を提案するが。ぶんぶん、と。キルコは首を振ってそれに応えた。  「この辺り人通り多くはないけど、無いわけじゃないでしょ?」  キルコの言うとおりである。つまり、  「見られちゃいけないからね。完全に人目につかないタイミングを狙うか、できればその状態を作りたいんだ」  「で、また俺か?」  建設会社での仕事を思い出しながら、壮介は言った。死神はにこりと頷き、  「一緒に考えてくれるだけでもいいんだ。頼んだよ助手さん」  そう言った。  「仰せのままに上司様」  茶らけるように壮介は答えたが、しかしどうすればいいのかは全く思いつかなかった。  前回も同じようなことをしたが、あれは作戦を考えたわけでもなくただ緊急事態に対応しただけであった。  一体どうすれば……、と。首を鳴らしたその時、あるものが目に入った。  ――――これはいいかもしれない。  早速、壮介は隣のキルコへ声をかけた。  「キルコ、経費で落とすことってできるのか?」
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