捕獲作戦

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――――――――――――――――――  ユジローの店から時間は少し遡り、ついにキルコ達は作戦開始の時を刻んだ。  「これより、“偽国の残党”捕獲作戦を開始する」  魔導対策部長はこう言って、その後の一切をカガクラに放り投げた。そのバトンを受け取ったキルコ達の上司はコホンと咳一つ。高らかな声を響かせた。  「今から入る所は言わば異界だ。ただの魔導者達とは違う、最大危険指定の印を押された化け物達の残党と新たな仲間が居る魔界だ。協会の上層部も非常に懸念している。…………命を捨てる覚悟でこの作戦に挑むように」  言って、カガクラは深い碧色のマントをなびかせ振り向いた。その視線の先にはボロボロの鳥居。まさに魔窟の入り口であると言わんが如くどす黒い空気を放っている。  数秒の間。カガクラは待っているような素振りを見せた。  突入班全員の息を整える時間を。心を決める間を。食いしばった歯を緩める瞬間を。  心臓の鼓動が幾重にも重なって聞こえてくるような緊張の中で、死神キルコはただ先を見据えていた。  刹那、その場の空気が糸を切った。カガクラが、動いた。  ゆっくりと動く足は鳥居をくぐり、身につけたIDが作動しカガクラはその先へと消えた。その後を死神達が追う。無論、キルコの足も迷うことなく鳥居の下の地面を踏みしめていた。  直後、足に感じたのはレンガの固さ。しっかりと間違いなく、元日本地獄協会本部へと入れたようだった。  入った後の動きは皆素早かった。打ち合わせ通り、身近の建物、または物陰へと身を潜める。  キルコが隠れたのは崩落した家屋。他に何人かの同僚と、そしてジェーンが居た。彼らと目が合うと、視線を交わし歩く顎を引いた。  少しだけ見た外の景色は、現地獄の様子と似ていた。ただ一つだけ決定的に違っていたのは破壊の跡だけ。キルコの、いや誰もが想像していた通りの廃墟と化していた。  この廃墟で作戦の第二段階が始まる。進入の次、進行。まず、リジィを拘束するための班が動かなければいけない。即ちキルコとジェーン、そしてカガクラ。  キルコはそう考え、胃の中の陰鬱な空気を吐き出した。ため息をついた理由はリジィの対応が嫌だからでは無い。もっと広く見て、この作戦全体についてであった。  明確なチャンスが訪れているのは分かる。
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