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それが少ししたら死神道具の発見で無くなってしまうかもしれないということも分かる。ゆっくりと準備を行っていられず、静かに一気に捕らえてしまう方法が一番有効であることも、その為には進入要員は少なくなければいけないということも、まあ理解はできる。
しかし、それでもリスクが大きすぎる。キルコが簡単に考えただけでも、少なからず犠牲が発生することは明確だ。それほどまでに魔導を操る集団というものは危険なのである。
『命を捨てる覚悟でこの作戦に挑むように』
カガクラの言葉が耳について離れない。何故カガクラはあんなことを言ったのか。キルコは不満に思いながらも、作戦のために動いた。
まずはカガクラと合流しなければいけない。キルコはジェーンに目配せすると、小さな木彫りの通信機を取り出した。これでカガクラとやり取りを――――
と、そう思った瞬間。
『みんな、聞こえてるかい?』
既に耳に仕込んでいた受信機からカガクラの声が聞こえた。潜めた声だが、いつもの口調のカガクラだった。
聞こえているか、と問うたが当然答えを待つまでもなくカガクラは続ける。
『さっきはすまないね。あんなこと言って。対策部長の手前、ああ言うしか無くてね』
崩落し屋根の抜けた家屋。その中でキルコを含めたその場の死神が耳に意識を集中させていた。
『今なら彼はいないから、これから本当の叱咤激励をするよ。大事なことだ、よく聞いてくれ』
少し間が空き、彼の言葉がそのまま続いた。
『絶対に死なないでくれ』
ずん、と。カガクラの短い一言は鼓膜を震わせ脳に突き刺さった。たぶん、それはこの魔界にいる死神全てが覚えた感覚だろう。
『上は死に物狂いで解決しろなんて言ってるけどね、やっぱり一つの命も大事なんだ。大事なものは大事なんだよ』
それは変えがたい事実だ、と。彼は言う。
『しかし、ここで奴らを止めないとどうなるか分からないのも、また事実だ。その為に我々がいる。我々が奴らを止めないといけない』
すう、と息を吸う音が聞こえ、一瞬の静寂。
『ひどい矛盾に聞こえるかもしれないけれど、何としても我々で残党を捕らえるんだ。でも、死ぬことだけは許さない』
…………、と言葉の端々に苦悩が見え隠れし、それでも死神の長、執行部長カガクラ・ラウンは言った。
『では、作戦開始だ』
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