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コンビニ弁当のパック。カップ麺の器。出しっぱなしのペットボトル。散らかった衣服。絡まった電気コード。重なった雑誌や漫画本。
あるアパートの一室。
電気ケトルの中で湯が沸騰したのを見て、田住祥子はカップ麺の蓋を二つ剥がした。スープの素を取り出し、代わりに加薬を入れて熱湯を流し込んだ。
「はい、スープはこれね」
祥子がローテーブルに積まれた化粧品の上を越してカップ麺を手渡す。その先にはいるのは彼女の夫、田住和暉。
「おう」
耳のピアスを揺らして和暉はそれを受け取った。
「今日夜勤?」
和暉が祥子の方を見ることなく問うと、
「うん」
彼女も薄く応えた。
「どこだっけ?」
「そこのコンビニ」
二人はそれぞれスマートフォンの画面を見て細切れの会話を続ける。
「変えたんか」
「うん。時給高いし」
三分。
散らかった部屋に麺をすする音が響く。テレビが光と音を垂れ流しているが、二人は見ることなくスマートフォンに視線を落としている。
「そういや、あれ処分しとけよ」
ここで初めて視線を上げた和暉が祥子の視線を部屋の隅に誘導させた。そこにあるのは畳まれた布団と枕、そしてアニメキャラクターのプリントがされた毛布。雑に部屋の隅に押しやられている。
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