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『上へ』
頷くと、キルコはカガクラの背に続く。
金の刺繍が施された赤いカーペットは音という音を全て吸い込んでしまっているようだ。キルコは足音を沈み込ませながら、前進を続ける。
そして三人は例の箇所へ。
窓に打たれた板をすり抜けた光が薄く照らすだけの廊下。視線の先には重そうな木の扉。ジェーンを見ると、深く頷いた。
『魔導の反応あり』
キルコは今、悪魔達の前に立っている。扉一つを隔てて、そこに居る。音は相変わらず足元に染み込んで、部屋の内部からも何も聞こえない。
静寂。
キルコはカガクラを見ると、手を使ってジェスチャーを送った。
とある策についての、ジェスチャー。廃墟の街を移動しながら彼と話した作戦である。うまくいけば、被害は大きく抑えられるはずだ。
それは簡単なことで――――
――――単純に強力な死神道具でメンバー全員を拘束、後に然るべき処置を行う。
という、本当にそれだけの作戦。
しかし、その威力を持った死神道具を使うのは困難。よって、潜伏場所によっては軽くかわされてしまう。
と、思われたが。条件は揃っていた。
扉で身は隠されており、部屋も狭い為に道具がほぼ確実に当たる。
その意思を伝えたキルコのジェスチャーは、カガクラに届き、そして『YES』の返答を得た。
使う死神道具は普段なら使えない倉庫にしまわれている。呼び出すのはカガクラ、キルコとジェーンは魔力を送り、操作と維持を行う。
三人の示し合わせは完璧であった。
最後に必要なのはジェーンの眼による部屋の内部の確認のみ。
三人はカーペットの上を、しかし慎重に足音を殺しながら扉の前まで近づいた。同時に、ジェーンは目を見開く。
直後には、手の動きで内部の状況を報告。
する、はずだった。
ジェーンはジェスチャーをしなかった。
代わりに、発したのは。
声。
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