強襲

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 「ってことはやっぱりさ、爪楊枝とスプーンだったら爪楊枝の方が無くなったら困ると思うんだよねぃ。あんたはどう思うん?」  暗く静かなホール、”門”で声を響かせるのは受付嬢サリ。彼女の後ろには黒いスーツを纏って立つ五人の守衛。そのうち一人にサリは話を振ったのであったが、返事は曖昧に困ったように首を傾げるだけで終わった。  「…………」  はぁ、と。内心サリはため息をついた。もう長年、この守衛たちと受付けに立っているが、まともに会話が成立したことは無かった。  気を晴らすことなど、到底できなかった。  サリは自分の仕事が好きだった。否、好きである。協会本部の出入り口で、その最先端に立てているのだ。キルコを始めとした殆どの死神、また他の職員とは気軽に話せる友人になっていたし、彼らから聞く仕事の話がとても好きだ。  そんな仕事で初めて、ミスを犯してしまった。  誰もが「それはミスではない」と慰めてくれるが。それはサリの性格のせいなのか、それとも受付という仕事に持った誇りの為なのか、彼女の心はそれをミスだと言って聞かなかった。  彼女の心は『可能性の重責』からは逃れられていなかった。  「…………はぁ」  と、サリはため息を吐き出すと、同時に外からの帰還者と思われる影が三つ。世界をつなぐ陣から現れた。  今日決行された捕獲作戦からの帰りかと思ったが、すぐにそれは早すぎると思い至った。単純に複数行動をしていた死神の帰還であろう、とサリは表情を和らげた。  近づいた影に業務を執り行おうと、そして仕事で疲れているだろう彼らを労おうと。  「おかえりなさい。お疲れさま。IDを――――」  と、そこまで言ったところで。サリは違和感に首筋をくすぐられた。  ――――見たことの無い、顔。  何年も受付嬢をやっている。当然の如く、出入りを行う者達とは最低でも顔見知りに以上にはなっている。なのに見覚えが無い彼らに対して、サリは違和感を覚え言葉が途切れた。  そんなサリを見て、しゃがれた笑い声がサリの鳥肌を掻き立てた。  刃渡り30センチはあるだろうか。その刀身はまがまがしい。サリは身体がすくんで動かなかった。  「残念ながら、ナイフしか無ぇな」  肉が金属と擦れる音が耳と頭で跳ねまわった。
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