強襲

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―――――――――――――――――――  アジトかと思われたそこには罠があり、残党のメンバーは井岡を除いてその姿を見せることが無かった。  死神キルコは考える。  井岡健の脱獄はいわば大事件であった。それにかつて最悪の評価を烙印された組織が関わっていたことは、瞬く間に脅威の種として知れ渡った。  死神キルコは考える。  その種は決して無視することのできない危険を孕んでいる。上層部がそう捉え早急な対処を指示することは必至なのかもしれなかった。  死神キルコは考える。  実働的な魔導対処は死神の仕事である。地獄協会にも警安部に属する衛兵隊はいるにはいるが、しかしいかんせん実戦経験が欠けている。緊急事態において敵からの攻撃に対しての防御行動の基盤となるのは、死神達に発令される自衛プロトコルとなっているのが現実である。  死神キルコは、舌を鳴らした。  今、地獄協会本部の死神の三分の一は作戦の為に出払ってしまっている。キルコ・コフィンズを含めた上級執行官は6人、それら全員が作戦に参加している。はっきり言って、現在地獄の防衛力は格段に下がってしまっている。  「狙いはそこである可能性がある」  口早に大きな声で焦るように。カガクラが声を出している傍で、キルコは爪を噛んだ。  偽国の残党。奴らの狙いはそこだったのかもしれない。手薄となるガードを狙って攻め入る為に、井岡を利用し死神をおびき寄せたのではないか。  この可能性に気づいたと同時に、カガクラは本部の監視システム管理室へ連絡を飛ばしたが、「本部内に変わった様子は無い」との返答を得た。ただ、気になったのは、「”門”の監視システムがトラブルを起こしており一時停止している」という発言。  このタイミングでのそれは、キルコ達の首筋に鳥肌を立てさせるには十分すぎる要因であった。  “門”に衛兵隊を派遣するように指示はしたが、焦りは消えない。  「井岡は捕らえた。これより連行すると共に、早急に本部へと帰還するッ……!!」  カガクラが似合わない早口で指示を飛ばすと、空気が慌ただしく動き始めた。  リジィのトラップを回避してから約十分。  (壮介――――!!)  “偽国の残党”捕獲作戦、終了。他の死神と共にキルコ、地獄へと舞い戻らんと足を踏み出した。
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