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どうせ奴らは扉のことは知らないであろ――――
「タイムリミットは残り二分といったところですか」
――――う、と。サリは耳を疑った。腕時計らしきものに目を落とした男が、静かにそう言ってサリを睨んだ。そこには明確な殺意がこもっていた。
全身の肌が粟立つのを感じ、奥歯が勝手に怯えを奏でる。
「真川さん! この人、殺しちゃってください」
「……おう」
白スーツの言葉に無精ひげが応える。
ゆっくりと、迫ろうとする死。
「ぅ、あ、……ゃ、め……」
――――やめて。と、サリは何とか心の中で声を噛み潰した。倒れ死んだ同僚たちの目の前でそんな情けない姿は見せたくなかった。
シャリ、と。真川と呼ばれていた男が大振りの刃物を抜いた。鋭利な死が目に入った。
それと同時に。
「なんだよ?」
真川がしゃがれた声で隣を向いた。その先には黒いフードをかぶった姿。真川の腕を掴むようにして彼を引き留めていた。
そうして彼の問いに答えることなく、黒フードは歩をこちらに進めた。ゆっっっくりと、死が迫る。真川は軽く舌打ちをすると刃物を収めた。
奴らは緊急自衛プロトコルについて詳しく知っていた。自分の死は無駄になる。サリ・シリンスは無駄に死ぬ。
彼女を包んでいたのは、深い絶望。
バチバチ、と。黒いマントから伸びた手で電流が弾ける。
奴の足が止まり、サリの目の前に無意味な死が立っていた。サリの脳には虫が這うように恐怖が巡り、目からは止めどなく絶望の涙が溢れる。
「はっはっはっ! あなたがその命をもって稼げたのはたったの二分でしたね! 見事に無様だ! ざまあみろ!!」
白スーツの男が叫び、それを合図にしたかのように電気の暴れる右手が顔の前に迫った。青白い光が小爆発を繰り返している。
そしてそれは、照らした。フードの下を。
瞬間、絶望の中に沈んだサリの意識が、世界のすべてに置いていかれるような感覚に晒された。サリ・シリンスの目は絶望よりも大きな驚愕に見開かれた。
「え――――?」
直後、邪悪な自由電子が視界を真っ白に染め上げた。
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