強襲

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―――――――――――――――――――  午前11時32分。  唐突に発令された避難勧告が混乱という渦となり地獄をかき回していた。  住人たちは我先にと避難用施設へと脚を走らせる。  緊急自衛プロトコルに伴った避難。シェルターとも呼べる建物へと避難し、その内部に設置された一方通行の脱出用ゲートから協会外へと出る経路。  急く住民たちはこの経路を走り辿っているのだが、早くも侵入を許してしまった今、その混乱はただの的にしかならない。  が、古藤を始めとする偽国の残党"人間部隊"はその中をただ悠々と歩くだけであった。  「ま、彼らを殺すのが今回の目的では無いですからね。時間も…………」  白い袖を捲り上げ、古藤は腕時計を確認した。  「たったの、ですが。二分ほど遅れています」  有象無象に構っている暇はありません、と。狐のような顔をした彼は言う。そして後方に何かを感じ取ったような表情を浮かべると。洋風の街並みの中、足を止めた。  「やはり、気にするべきは…………」  死神、と声が発せられると同時に風切り音が古藤の首筋に突き刺さらんと迫った。  パキャリ、と。軽い金属音が鳴ると、風を切っていた小さな矢が斬り落とされた。禍いナイフを振り抜いたのは、真川。無精ひげを生やした顔の皮を歪め、狂気を孕んだ笑みを浮かべている。  「はぁぁぁ…………もう来やがったか」  楽しくて楽しくてたまらないッ!!! と。そう叫ぶ代わりに息を吐き出し頬を吊り上げる。  コンマ数秒、次の風切り音が鳴ったが、真川はそれも正確に払い落としていた。  だけでなく、瞳孔の開いた眼が一点を凝視した。  「そ、こっ、かッ!!!」  建物の屋根。煙突の影から半身だけ現していた死神に向かって、真川は刃渡り30センチの死を振り抜いた。  空気が軋み、叫び、斬撃が血の花を散らしていた。死神が一人、屋根から墜ちる。  「ありがとうございます、真川さん」  古藤は言うと、真川は首を横に振った。  「まだこれからさ。そうだろう、古藤?」  問いかけられ、彼は軽く頷いた。  「期待していますよ、"死神殺し"」  その言葉を聞くと「ああ」と一言。真川はふらりと歩を進め、二人の仲間から離れていった。やがて、その姿は建物の影へと消える。
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