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「ガス漏れってどういうこと?」
若いガス業者の言葉を無視して祥子は訊いた。ガスの臭いなど感じられない。
「臭い気づきませんでした? けっこうキツいですよ」
言われて嗅いでみるが分からない。
「少しずつ漏れてて慣れちゃったのかもしれないですね。すぐ終わりますので少しお邪魔します」
そう言うと若者は玄関の中にずいと入ってきた。しょうがないので祥子は場所を空けると、そのまま彼は台所のガス周りにしゃがみ込んだ。
そっと玄関から顔だけ出して外を見回してみるが、警察らしき姿は見受けられない。こちらを見ている和暉にアイコンタクトで安全を伝えた。
「あー、ここですね。作業に入ります」
若者はそう言うと何やら手作業を始めた。何をしているか詳しくは分からない。
「そういえば」
と。彼が唐突に話を切り出した。
「な、なに?」
全く無言でいるのも怪しいかと思い、祥子は下手な相槌を打った。
「弟から聞いた話なんですけどね」
カチャカチャ、と。若者は手元を動かし、言葉を続ける。
「この近くに空き地、あるじゃないですか」
ガタン、と。リビングで物音。和暉が何かを倒したようだ。そんなこと構わずに彼は続ける。祥子はその言葉を高鳴る心臓と共に聞いた。
「そこに死体が埋まってるらしいですよ」
頭から。全ての温度が流れ落ちるような、そんな感覚に襲われた。脳の中で意識が圧迫される。
「え、な、何言ってんの?」
震える声で、自分の口が喋っているのが分かった。視界の端で和暉が立ち上がり、そのまま固まっているのが見える。
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