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辛く厳しい冬を越えて、暖かい春がやってきた。
暦の上では、もう春だったらしいが、このように『春爛漫』という陽気の良さでないと『春』という気持ちにとてもなれない。
こうして僕は、ふわふわとしたよく分からない心持ちのまま退屈な学校への道のりを歩いている。
今日は、始業式。
本当はもっと暖かい家の中で、ゲームでもしながら娯楽に耽って『ああ、日本は最高だなぁ』なんてことを言っていたかったけれど、それも今日でおしまい。かくして、面倒な早起きをしとぼとぼと一人寂しく歩いているのだ。
たくさんの桜並木。
ここの公園の桜も綺麗になっているなぁ。
ピンク色の花びらがひらひらと舞い、落ちていく。
それに、なんとも言えない切なさを感じていながらも、こんな事をしていると遅刻になってしまう、と足を早める。
決して足を止めまい、と…。
その姿を見るまでは。
桜並木の中に、1人、桜が舞い散る中でただ1人、足を止めてその木に見入る少女の姿を見た。同じ学校だと思う。
その木は、この公園の中でも一番大きい木だった。
ゆっくりと、少女に近寄る。
紺の制服には花びらが何枚もくっついていて、初めからその色だったかのような自然さだった。
ふわり、柔らかい春の風が頬を掠め花びらを舞い散らせていく。少女の髪も桜と同じピンク色、それも花びらと同様に綺麗に揺れた。
すると、僕の存在に気がついたのかゆっくりと彼女は振り返る。
少女は満面の笑みで、こう聞く。
「桜は好きですか?」
それが、彼女と僕の出会いだった。
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